第2回人間関係講座〜いじめの構造〜 要旨 大阪の幸朋カウンセリングルーム

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Lecture on Human Relationship

第2回人間関係講座 〜いじめの構造〜

日時  2012年7月27日(金) 午後7時〜8時45分
場所  大阪市西区民センター 第3会議室
講師  松波 幸雄

1. 講師の創作による事例『A子の場合』の続きを朗読。
2. 『A子の場合』におけるいじめ体験(今回のレジュメ+小学校時代のいじめられ体験)について、要点(本文中下線の部分)を解説。
3. パワーポイント(スライド)を使って、動物生態学などの視点から、いじめの一般的構造を解説。
4. 参加者からの質問に対する応答。

創作事例 『A子(派遣会社勤務 31才 独身)の場合』

前回までのストーリーはこちら >>

【新入社員の年】

同じ課に配属された同期のC子と先輩2人が、A子と一緒に昼食を取る仲間となった。いずれも女子社員である。
C子は人懐っこく、けっこうはきはきとものを言うタイプ。また、他の部署の様子を見聞きする限り、上司にも恵まれていると言うべきだった。
直属の上司であるB課長は40代後半の男性で、一見静かなタイプだが、部下が業務上の問題を訴えると真面目に対応してくれるし、案外上に対してもはっきりとものを言う人だった。ただ、かえってそのことが災いしてか、出世は芳しいとは言えない。
隣の課長は少し若いが、いわゆる「われ関せず」のタイプで、出世のスピードはまず順調。下の者にばかりややこしい仕事が集中し、古株が楽な仕事を取っていても、状況を改善する意志がまったくないらしいと、小耳にはさんだC子がA子に耳打ちした。

それにしても、C子の情報通ぶりにはいつも驚かされた。A子と同じだけしかこの会社にはいないのに、いつの間に誰と話したのだろうと思う。
A子のアフターは、たいていは帰宅するだけだったし、遊ぶとしても2〜3人の学生時代の友人とばかりだった。
「C子はけっこう同僚と遊びに行ってるのかなあ。先輩ともちょこちょこ遊んでるみたいだし……」 と思うと、少し焦る気持ちが疼いた。だが、多趣味で友達が多く、ブランドにも詳しいC子の真似が、とうてい自分にできるとは思えなかったので、「自分は少しでもきちんとした仕事をしよう」という方向に気持ちを向けることにしていた。
結果的に、A子自身ははじめ知らなかったが、課内での仕事の評価は高い方だった。

【B課長の休職】

12月はじめ、B課長が、体調が優れないとのことで欠勤した。かなり疲れているようだとは思っていたが、それ以上に、最近部長との関係がよくないらしいのが気にかかった。
その後半日出勤の日が何日かあったが、結局は年の瀬、うつのため3ヶ月の休職の必要があるという医師の診断書が出されたと、直接部長から聞かされた。

「これで(休職は)2回目や。どうもあいつは……」 と部長はこぼした。
課長が以前にも休職したことがあったというのは初耳だった。A子がひどく不快に思ったのは、部長の心配や困惑を装った表情の奥に、あからさまに勝ち誇ったような感情が見て取れたことだった。A子にとっては、不快というよりも恐怖に近い感覚だったかもしれない。

C子に部長の表情のことを言うと、
「ああ、最近Bさんとはギクシャクしてたみたいやからなあ。まあBさん、ちょっと神経質なとこあるからちゃう?」
と、的はずれな答えが返ってきた。また、うちの課長はちゃんとしているというのが共通の認識だと思っていたので、C子のB課長に対する評価に驚くと同時に、まるで自分が突き放されたような気がした。

年が明けてしばらくの間、課の指揮は直接部長が取った。
例の表情には引っかかったが、声が大きく快活、人を笑わせるのがうまく、かなり早い出世を遂げたと聞いていたので、きっとすごく能力の高い人なのだろうとA子は思っていた。

しかし実際、仕事はかなりやりづらくなった。
たとえば、指示が曖昧なために困惑することが多く、かといって細かい質問をするとあからさまに不快な顔をされる。結局あまり質問ができないまま、先輩方に聞きながら仕事を仕上げて持っていくと、それはそれで叱責されることが少なくない。何よりも、指示が明確でないのと、やったことがない仕事なのに、自分でやり方を考えなければならないストレスが大きかった。

しばらくして、元の課長の仕事は、その年度一杯隣の課長が兼任することになった。例の、「我関せず」の人である。状況が改善されるはずがなかった。
やがて、課内でのA子とC子の立場の差が少しはっきりとしてきた。どう見ても、自分の方がいつも忙しい感じがする。はじめは思い過ごしかとも思ったが、A子のほうがややこしい仕事を与えられることが多いように思える。どうもA子の負担がじりじりと大きくなっていく。
仕事量もさることながら、むしろ緊張からくる精神的負担が大きい。

A子は、C子と自分の違いに気づき始めた。C子が言われたことだけをこなすのに対し、A子は、仕事の先を読んでしまうのである。
今これをしなければならないということは、このことを調べておかなくてはならない。また仕事の流れ上、次にはこのことをしなくてはならないはずだ。そして、どうやれば一番合理的に処理できるかということを考えるのだが、そのやり方で本当にいいのかどうか、常に不安を感じ続ける。

C子を観察していると、そのようなところはほとんどなかった。
C子の仕事に対する態度には、迷いというものがほとんどない。処理の仕方が常にパターン的で、その成り行きをあまり追求していないのである。
それで大丈夫なのかなと思い、聞いてみると、口を尖らせて「なんで?これで何も問題ないけど」と答える。いきなりイラつかれて、ちょっと驚くと同時に圧力を感じる。
「どうすればC子みたいな感覚になれるのだろう」と、そのことはA子の劣等感を刺激した。

ある昼休み、仕事に対する自信のなさについて、話の流れで先輩2人に相談したことがあった。
先輩たちは、 「Aさんけっこうやれてるよ。まあ、そんなに頑張らんといこう」 と言った。
褒められたことは少し嬉しかったが、自分だって頑張りたくて頑張っているわけではない。どうすればC子のように仕事の先読みをせず、スルーできるのかが問題なのだ。

C子自身にも、仕事に対する悩みをついもらしたことがあった。
「どうしたら、もうちょっと楽に仕事できるんかなぁ?」
「私はあんまりストレス感じひんよ。A子、いっつも何か考え過ぎちゃう?仕事を抱え込んだらあかんよ。割り切っていかんと……」
と、C子は少し説教じみた口調で言った。 A子は後悔した。自分は悩みを漏らしはしたが、相談したつもりはない。1年目の同期なのだから、どちらも仕事についてはあまり分かっていないはずなのだが、C子は大体分かったつもりでいる。しかも、すでに見下されていると感じた。
見下される理由が分からなかった。
たしかに、A子のほうが部長から叱責されることが多くC子は少ない。しかし、そもそもC子は部長との間を行き来しなくてはならない仕事を、ほとんどしていなかったのだ。

A子の苛立ちを刺激したC子の言葉は、もう一つあった。
今から考えると、B課長の下でだと、どれほど仕事がやりやすかったかが身に染みてわかるので、A子はついつい「Bさんのときは……だった」とか「Bさんだったら」と連発してしまうのだが、それに対してC子が、 「あんた、Bさんのこと好きなんちゃう?」 と、少しにやつきながら探るような目で言ったのである。
驚いて「えー!それはちゃうよぉ!」とは言ったが、あまり強く言い過ぎると、それはそれでBさんに申し訳ない気がする。C子は、そのA子の気持ちの揺らぎを見て、言い当ててやったと思ったらしく、しつこくにやついた勘ぐりの目をやめなかった。
A子は、部長とB課長とのやり方が、どうしてこうも違うのかを考えたかったのだが、話をあらぬ方向へ、しかもひどく失礼なやり方で向けられてしまったので、もう話を続ける気も弁解する気も失せてしまった。
A子はC子に対して、「こいつ、嫌な奴」とはじめてはっきりと思った。

翌日からC子のA子に対する態度が、明らかに変わった。
他の先輩方への接し方に比べて、A子に対しては何となく淡々としており、あまり目を合わさない。また、A子が席を離れて戻ったとき、小声で先輩に話しかけていたC子が、明らかにその話をやめたりする。
話しかけられていた先輩の方が察して、一瞬「何かあったのかな」という表情を向けてくるが、何かに気づくには至らない。嫌あな予感がする。

そうかと思うと、突然C子のほうから話しかけてくることもあった。
一見これまでと変わらない話し方をするので、A子はふと自分の思い過ごしなのかなと思いつつ、普通に返すと、C子はそれには返事せずに、向かいで話していた先輩2人の旅行の会話に急に割って入る。で、そのまま3人の会話になって、A子は置き去りになる。
どれ一つとして、こうと指摘できるほどの変化ではないが、A子にとっては何やらチクチクとした痛みを覚え
る。凡庸なタイプの2人の先輩は、この一見普通のやり取りに、当然何の違和感も感じていないらしい。
「C子は、私とは話したくないのかな。こないだ仕事の悩みを話したときに、こいつ嫌いと思ったのが分かってしまったのだろうか?それとも何か気に障ることを言っちゃったのかな?
「でも、普通に話しかけてくることもあるんだから、やっぱり私の思い過ごしなのかな?私の自意識過剰?
A子はだんだん訳がわからなくなってきた。

2人の先輩の態度は、しばらくは変わらなかったが、やがて少し変化しはじめた。
A子に何らかの敵意があるという風ではないが、C子がA子に話しかけることが減ったのにつられるように、A子がその場にいるときといないときでは、いるときのほうが明らかに会話が少ない。とくに個人的な会話
が。
けど、ここは職場、そして勤務中だ。個人的な会話が少ないのは当然と言えば当然である。A子は、とりあえず開き直って、仕事に没頭することにした。

〈このストーリーは、第3回人間関係講座へと続きます〉

解説

「いじめ」の生態学的な意味

群れ生活を営む動物の「順位制」について

生物が生きていく上での、基本的に必要な行動=捕食と生殖
つまり生物は、より多くの食物を獲得し、より多くのメスとの交配、あるいは、より優位な遺伝子を持つオスとの交配を希求する傾向がある。

群れで生活する動物の場合、これらをめぐって闘争が起きる。
しかし、群れ内で闘争が際限なく繰り返されると、傷や疲弊のため群れ全体が弱体化する。
……闘争は少ない方がいい。

群れが形成されたり再編成された直後からしばらくは、いじめ行動が繰り返されて、群れ内に強者→弱者の順位制(ヒエラルキー)が形成される(多くの場合、オスごととメスごと)。
具体的に言うと、1つのえさを2匹の個体が目の前にしたとき、常に上位の個体がそれを取り、下位の個体は譲るというパターン。
いったん順位が形成されると、下位の個体は上位の個体を避けるようになるため、もはや闘争はほとんど起きなくなる。

ニホンザルにおけるいじめ行動

ゴリラやチンパンジーなどの類人猿の順位制と比べ、ニホンザルの群れの場合、ほぼ一直線の順位が形成されている。 (ただし、人間に餌付けされていない自然界における群れでは、より複雑、あるいは曖昧なヒエラルキーが形成されるとの報告もある。)
人間がえさを与える場合、たまたま近くにいた個体がそれを食するため、一時的な順位の混乱が生じる。
⇒再度順位を明確化するために、上位者から下位者に対する一見無目的な攻撃、つまりいじめ行動が生じる。
=相手に対する示威行動・周囲に対する示威行動 さらに、いじめられた個体は、近くにいるより下位者をいじめる。
=うっぷん晴らし・先棒担ぎ・へつらい

人間におけるいじめ

ニホンザルとの違い
1. 同じ人に対するいじめが、執拗に繰り返される。
2. ほとんどの場合、1人に対して集団で行われる。

違いの理由とは
知能が高度になるにつれ、順位は単純ではなくなる。
=縄張り・家族・政治力など
=現在の上位的立場は、安定したものではない。⇒ 怯え
=集団化することによる優位性の確保+自らの立場が上位であることを、共有し合い確認し合う。
単純な順位制への、強迫的な引き戻し行為?

いじめをする性格・される性格

Wikipedia『モラルハラスメント(精神的暴力)』の項より
加害者の性格=自己愛的変質者
被害者の性格=うつになりやすい性格(メランコリー親和型)=生真面目で闘争心が低い。
 +加害者が欲しているが手に入らないものを持っているか、自身の生活の中から喜びを引き出している。

執拗ないじめが起きる条件

いじめる側から見て、しっぺ返しを受ける危険性が少ない。ほぼこれに尽きると言ってよい。
たとえば、
・仲間が少ない
・闘争心が小さい
・管理者(教師など)が見て見ぬふりをする傾向がある
=管理者への挑戦 ⇒傍若無人化(お局も同様)
いじめが起きる条件とは、本質的にはいじめる側の条件であり、いじめられる側には必ずしも明確な条件は存在しない。あっても、きっかけに過ぎないことが多い。

いじめへの対策について

要点
1. いじめが起きないようにするには?
2. どうすればいじめを早く収束できるか?
3. いかに被害者の心の傷を最小限にとどめ、回復させられるか?

・管理者が見て見ぬふりをしない。 ←いじめが起きたからといって、ただちに担任の低評価につなげない制度の整備。
・生徒・教師のストレスを減らす方向を重視する。
 …校則の緩和など 管理の強化や圧迫(ストレスの増加)は、教師等の「事なかれ主義」を助長する面がある。
・クレーマーやマスコミに対する対応の問題
「意見聞くときゃ頭を下げろ。下げりゃ意見が上を越す。」的体質は隠蔽体質を強める。
・多様な人間関係を育むこと。
 生徒同士の関係構造が多様化することで、「捨てる神あれば拾う神あり」という構造的背景が生まれる。

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